コラム

健康で文化的な最低限度の生活    【2022年事務所ニュース夏号】

弁護士  太 田  伊早子

 先日、看護学校で生存権(憲法25条)についての講義をする機会に恵まれました。
 演習講座の一環の特別講義で、学生たちは事前に生活保護制度をはじめ様々な社会保障制度について学んでいました。
 生存権がテーマとなった代表的訴訟と言えば朝日訴訟があります。結核療養中で、生活保護を利用していた朝日茂さんが、国の処分に対し、憲法25条の保障する健康で文化的な最低限度の生活を営むことができないことを理由に争った裁判です。この裁判をきっかけに、憲法に基づいて社会保障を求めるという運動が起こり、日本の社会保障は飛躍的に発展しました。
 しかし、現在、政治のなかで自己責任を強調され、社会保障予算が実質的に削られています。多くの人が既に苦しい生活を送っていたり、生活不安・将来不安を抱えながら生きている現状があります。
 学生のなかから「生存権は貧困になる前にそうならないように保障することまで含まれるはずだと思う。でも、実際には賃金も上がらず、経済成長もしていない。社会保障も実質的に削減される。健康で文化的な生活を送る権利はなぜ実現されないのか?」という問いがありました。
 これは本質的問いだと思います。私たちが目指すべき社会は、自己責任社会ではなく、全ての人が「健康で文化的な生活」ができる社会なのではないでしょうか?