事務効率化と応接セット 【2023年事務所ニュース新春号】
弁護士 芳野 直子
事務所の弁護士執務エリアのすみっこには応接セットがおいてある。
昔は三人掛け革張りの立派なソファーだった。往年の大先輩たちが、昼休みにここで将棋を打っていたらしい。書面は弁護士が手書きをし、和文タイピストがその原稿を打って完成させ、裁判所に持参して届ける時代だった。その分待ち時間が長かった。
1990年代には、弁護士はワープロで自ら文書を打つようになった。当時のワープロは変換速度も遅く精度も悪く、プリントアウトも紙を数枚づつ補充しながらのゆっくりで、何事も待たされた。バブルの残り香か前日遅くまで呑んだ弁護士が仕事の合間にソファーで爆睡していた。
21世紀を迎えるころには、弁護士はみなパソコンを使うようになった。レーザープリンターは瞬時に何十枚でも印刷でき、文書は持参せずにファックスで裁判所に送り、だんだん待ち時間はなくなったが、節約した時間には他の仕事が入り込み、なぜか忙しくなった。この時期応接セットは、寝られない2人掛けの小さ目ソファーに買い替えた。このソファーは仕事で疲れた弁護士が休憩するなどして使っていた。
この度、民事訴訟法が改正され、民事裁判はすべてIT化されることになった。裁判はWEBで行われ、実際に裁判所に出かけていく頻度は劇的に減り、完全にペーパレス化されることが決まった。これで印刷待ち時間も移動時間もなくなることが確定した。
なぜだろうIT化により便利になるのに、単に仕事の濃度が凝縮されるばかりで忙しくなる図しか浮かばない。これに比例してか、応接セットは、ソファーを排して、スツールを設置したカフェスペースに改編された。のんびり寝ても座ってもいられない時代がやってきたのだ。