刑法が改正されました 【2023年事務所ニュース 夏号】
弁護士 太田 伊早子
2023年6月の国会で性犯罪規定が見直され、「不同意性交罪」を新設する改正刑法が成立しました。暴行・脅迫、アルコール・薬物の摂取、地位の利用などにより、被害者が「同意しない意思」を形成・表明・全うすることを困難にして性交などを行った場合に処罰の対象となります。
これまで、いわゆる「レイプ」について規定していた強制性交罪は、その性交が、被害者の同意がないだけというだけでは成立せず、「暴行・脅迫」を手段として行われたことを要求されてきました。しかも、この暴行脅迫の程度は、「相手方の抵抗を著しく困難ならしめる程度」でなければなりません。この理由についてかつて注釈刑法という書籍で「些細な暴行・脅迫の前にたやすく屈する貞操の如きは本条によって保護されるに値しない」(『注釈刑法』、65年版)と説明されていました。
そもそも同意がない性行為という圧倒的理不尽がそこにあるのに、さらに抵抗できないほどの「暴力」「脅迫」がそこになければ法的に保護しないということに正しさはあるのかという根本的な問題がありました。
今回の改正刑法は、まだまだ課題もあると思いますが、同意しないことを構成要件の中心にした点で、本当に大きな前進です。日本の刑法ができたのは1907年。同意のない性交が違法であるということがようやく法律のなかに書き込まれたのです。この長い時間のなかで多くの被害者の無念があったことを決して忘れてはならないと思います。