意 思 【2023年事務所ニュース 夏号】
弁護士 向川 純平
法律には「意思」という概念がある。
「意思」の合致により契約が成立するなど、法的に、というよりも社会において「意思」は極めて重要な概念である(なお、法律の世界では「意志」と書くことはない)。
しかし、そもそも「意思」とは何なのか?を考えるとよくわからなくなる。自分も含め頭や心の中を覗くことはできず、何をもって「意思」というのかよくわからない。人の思いは移ろい、確定された「意思」がいつのものか、どのように生じているのかも正確にはわからない。「意思」形成の過程も問題で、そこに至るまでの「こんなはずじゃなかった」ということも多い。認知症の高齢者の「意思」を周囲が勝手に決めてしまうこともある。
法律では、このつかみどころのない意思のあり様を、抽象的に整理し、外部的に一つに確定させ(というよりは確定したことにして)法的な関係を処理していく。もちろん、「こんなはずじゃなかった」を全て通せば世の中の取引は回らなくなる。しかし「あなたが決めたことだよね?」を強く貫き通せば、意思を持った個の主体は蔑ろにされてしまう。将来、AIに、「アナタノ意思ハコレデス」と決めつけられる世の中にもなっているかもしれない。
ともあれ、法的紛争の大部分は「意思」をめぐって起きている。この部分は当分IT化されない(されてはならない)と思うので、弁護士の仕事はまだまだある、と思いたい。