コラム

霊感商法問題   【2023年事務所ニュース 夏号】

弁護士 芳野 直子

 

 2022年7月安倍元首相殺害事件を契機として、カルト宗教に絡む問題が顕在化し、マスコミ等においても大きく取り上げられた。信者への過度なマインドコントロール、その下における高額な「寄附」、これに伴う経済的破綻と家族の崩壊、物心両面の虐待に苦しむ宗教二世、政治との癒着など、この数十年水面下で深刻化してきた問題点が一気に噴出したといっても過言ではない。
 厳しい世論の批判を受けて、国は旧統一教会に関する省庁連絡会議の開催、政府の「旧統一教会問題・相談集中強化期間・合同電話相談窓口」や消費者庁の「霊感商法等の悪質商法への対策検討会」を設置するなどの対応を次々と図った。日弁連も被害救済を目指して霊感商法の相談窓口を設置して法律的な受け皿を作った。さらに私自身も、日弁連の担当副会長として、消費者庁の検討会の委員に就任し、主に消費者被害の観点での立法提言に携わったが、深刻な被害を目の前にして何ができるか、そもそも本当の信教の自由とは何か、その意味に悩みながら、前に進むための意見を出していきたいと思って参加した。9月から11月にかけて7回に渉り研究会が開かれ、11月には政府に提言を行った。
 その後、2022年12月の臨時国会で、消費者契約法・国民生活センター法の一部改正、法人等による不当な寄附の勧誘の防止等に関する法律が成立した。
 消費者契約法の改正は、従来法が、事業者が当該消費者についての不安をあおることだけを取消事由としていたのに対して、本人のみならず親族についての不安をあおった場合も取消事由とするなど取消権の範囲を広げ、その行使期間も追認できるときから3年(現行1年)、契約締結から10年(現行5年)と伸長された。また、「不当な寄附の勧誘防止等に関する法律」は、法人等と個人との間でなされる契約もしくは単独行為たる寄附を対象として、寄附の勧誘に規制をかけると共に、一定の場合に寄附の意思表示を取消せるようにし、子や配偶者の婚姻費用・養育費等の保全のための債権者代位権行使の特例を設けたりした。
 並行して、被害者の個別救済を行う為に、法テラスに霊感商法の相談窓口が設置された。さらには全国統一教会被害対策全国弁護団が結成され、法テラスと連携するなど、旧統一教会の霊感商法や寄附被害の被害の救済に一定の道筋が作られた。
 しかし、法施行前の被害には適用されず救済の対象外であることや、わずかな期間で急ぎまとめられたこれらの法が被害の救済として十分と言いがたく、私が関わった消費者庁の検討会の提言ですら十分に反映された内容とは言えないなど、課題は山積している。これについては、今回二年後見直し規程が盛り込まれているので、しっかり検証の上、この新たな法律をより被害救済に沿うよう柔軟に修正していくことが求められている。
 又、今回の新法・改正法は、霊感商法と寄附に関する被害の救済という観点にとどまっており、宗教二世の問題に十分対応できているとは到底言いがたい。宗教二世の問題は親子の関係にとどまらず、カルト宗教も含めた三者の関係に踏み込まなければ解決は難しく、そのための対応窓口もノウハウも専門家も足りていない。
 まだまだ、課題が山盛りの霊感問題ではあるが、それでも一時的なブームに終わらせず、一歩一歩歩みを進め、この問題を解決するための着地点を模索することが求められている。