コラム

灘立雪姫 【2024年事務所ニュース 新春号】

弁護士 芳野 直子

 

 暑い暑い夏が終わりを告げて、秋の気配が漂い始めた季節に、注文していた新米「灘立雪姫」が届いた。「灘立雪姫」は、日本海に流れこむ名立川が作ったのどかな田園地帯である新潟県上越市名立地区で育てられたブランド米である。名立川を上流にさかのぼると「大毛無山」がそびえている。この大毛無山の頂上に近い山腹に、坂本堤弁護士が埋められていた現場がある。今この地には、日弁連・神奈川県弁護士会・新潟県弁護士会・坂本弁護士と家族を救う会の連名でメモリアルが建てられて、当時の記憶を伝えている。
 山深く冬になると何メートルもの雪に埋もれるところにあるこのメモリアルは、この地の人々が、草を刈り手を合わせ大切に守ってくださっている。名立の人たちはたまたまその場に坂本弁護士が埋められていたというとても悲しいご縁だったのに、その縁を大切に守り伝えてくれている。大きな事件が起きるたびに「風化させてはならない」と大々的に取り上げられ叫ばれながら、あっという間に報道からも記憶からも消えていく、そんな時代にあって、名立の人たちの心はなんと美しいのだろう。
 私は届いた「灘立雪姫」をほおばりながら、引き継いでいくことの本当の意味をかみしめた。ふっくら甘くてやさしい味がした。