労働審判制度 ―「迅速に」と「現場感覚」がこの制度のキーワード 泣き寝入りしていませんか?
裁判員裁判と違ってマスコミ報道もあまりされておらず、それほど知られていないけれど、実は働く人々にとって遙かに関わりの大きな裁判制度があります。
それが「労働審判」です。
この制度は2006年(平成18年)4月からスタートした新しい制度で、働く人と使用者との間の紛争を、迅速に、かつ、現場感覚を取り入れて解決する制度です。「迅速に」と「現場感覚」がこの制度のキーワードです。
迅速に解決するために、この制度は3回の期日で終了させることになっています。お互いが歩み寄れれば、その中で調停が成立し、調停で解決しないときは「審判」が言い渡されます。審判でも解決しないときは訴訟に移行しますが、8割近くの事件が労働審判の手続内で解決しているのです。
現場感覚を取り入れるために、事件を裁く「審判委員会」3名の内訳は、1人は裁判官ですが、残る2人は、使用者側の経験豊富な審判員と、働く人の側の経験豊富な審判員が選ばれています。
私がかかわった事件のいくつかを紹介しましょう。
未成年のA君は、葬儀会社に1月に就職し、真面目に働いてきました。ところがその会社は、タイムカードもなく、日報も提出させず、時間管理をまったくしないままに、A君に毎日のように残業をさせました。不安に思ったA君は、途中から働いた時間を手帳に書き留めていましたが、会社の時間外不払いは変わりません。我慢できなくなったA君は、翌年の1月に退職しました。ところが会社は、時間外手当どころか、12月に働いた分と1月分の給与すら払おうとしませんでした。A君は頑張ってお母さんと一緒に相談に見え、私に依頼しました。5月、未払の時間外手当63万円、未払賃金26万円、合計90万円ほどの支払いを求めて、労働審判を申し立てました。その結果、8月、3回目の労働審判で、「会社はA君に50万円を支払え」との審判が言い渡され、その後、会社から50万円が振り込まれて事件は無事解決しました。A君は今、元気に新たに就職した会社で働いています。
Bさんは、輸出入に関係する仕事をしている会社に就職し、保税の業務をほとんど一人で支えて働いてきました。その働きぶりは、Bさんがいることから会社が新たな契約をとれる程でした。ところが、5年目の10月、Bさんは、突然所長から「業績悪化のため、60歳以上の人には辞めてもらうから」と告げられ、11月末をもって解雇されました。しかしこの解雇は、整理解雇に関する判例に照らしても全く認められないものでした。Bさんは働く人の電話相談を通じて私に依頼し、2月、解雇無効を求めて労働審判を申し立てました。その結果、3月、1回目の期日で、1年分余の解決金を払うことで調停が成立し、解決しました。
Cさんはビル警備等の会社に6月に就職しましたが、入社まもなくから、リーダーと称する人から暴言・暴力を含むパワハラを受け、ついには全治10日を要する怪我まで負わされて、9月に退職を余儀なくされました。加害者に責任があるのはもちろんですが、このような職務上の不法行為に関しては、会社にも責任があります。そこでCさんは会社に対して労働審判を申し立て、第2回の期日で、会社が解決金を支払うことを内容とする調停が成立しました。
今の日本では、残念ながら、残業代の不払い、解雇、パワハラなど、理不尽・違法な仕打ちを受けることは珍しくありません。そのような時、「どうせ訴えても時間がかかるし」とあきらめなくとも、この制度を通じて、迅速に一矢報いることが できます。
「これはおかしい」と思ったら、どうぞ遠慮なくご相談下さい。