コラム

大河ドラマ「いだてん」

弁護士 向川 純平

 もう昨年のことになるが、NHKの大河ドラマ「いだてん」を1年通して見続けた。
時代設定は1912年のストックホルムオリンピックから1964年の東京オリンピックまで。日本初のオリンピアン金栗四三と東京五輪成功に奔走した田畑政治の両主人公の人生とともにスポーツ史を中心とした日本近現代史を描く。
時が時だけにオリンピック礼讃の話かと思ったが全く違った。アスリートにかかる重圧、スポーツに対し「金は出すが口も出す」の政治的うごめき、女子スポーツへ向けられる偏見など、今日と変わらないスポーツ史の課題も知ることができた。個人的には傑作だったと思う。
劇中、明治神宮外苑競技場(現在の国立競技場の前々身)において、1940年の東京オリンピック出場を目指す陸上選手の小松勝は、学生競技大会で優勝し観客から「万歳」の大喝采を受ける。その数年後の1942年、彼は、同じ競技場で学徒出陣式において「万歳」を受けながら銃を抱え雨中を行進することになる。日本のすべてが戦争に飲み込まれて行く象徴的なシーンであった。
現実に戻ると、去年は「万歳」を聞くことも多かったし、今年もそうかもしれない。しかし、「万歳」の掛け声はいつでも違う方向に利用されうることを歴史は示しているように思えてならない。