中小企業でも改正パート有期法が施行されました! 【2021年事務所ニュース夏号】
弁護士 有野 優太
今年の4月1日より、中小企業でも改正パート有期法(正式名称:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律)が施行され、これにより同法が国内すべての企業で適用されることになりました。パートタイムや有期契約で働く人にとって、重要な法律ですので、その内容の一部を簡単にご紹介いたします(なお、派遣労働者については、既に改正労働者派遣法が施行されています)。
1「同一労働同一賃金」?
この法律については、しばしば、正社員と非正規社員の待遇格差について、職務内容等が同じ場合には賃金についても同じにしなければならない、いわゆる「同一労働同一賃金」と定めたものといわれることがあります。では、実際のところ、法律の規定はどうなっているのでしょうか。
本法律では、第8条において、「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、…不合理と認められる相違を設けてはならない。」と定められています。
ここでいう「不合理と認められる相違」には、2つの意味があります。
1つ目は、職務内容等が同じ場合には、同じ待遇にしなければならない(これを「均等待遇」といいます。)ということです。ここでのポイントは、相違を設けてはならない対象は、「賃金」のみではなく、福利厚生や休憩休日など広く労働者に対するすべての「待遇」を含むという点です。
2つ目は、職務内容等に違いがある場合であっても、その違いに応じた均衡のとれた待遇にしなければならない(これを「均衡待遇」といいます。)ということです。
例えば、正社員の仕事を10、非正規社員の仕事を8とすると、正社員に月額30万円の賃金を与えていた場合には、非正規社員にも月額24万円の賃金を与えなければならないのです。
このように、法律上、対象は賃金に限られないこと、均衡待遇をも含まれていることからすれば、「同一労働同一賃金」ではなく「均等均衡待遇」と呼ぶ方が本法律の実態に即しているといえるでしょう。
2「不合理」とは?
それでは、どのような場合に、正社員と非正規社員の待遇差が「不合理」といえるのでしょうか。
「不合理」といえるかについては、「待遇のそれぞれについて」、「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的」に応じて判断します。
先ほどの例を流用して説明します。賃金については上述のようになっているが、休日について正社員については夏季休暇が与えられているにもかかわらず、非正規社員には与えられていないとしましょう。この場合、賃金については、均衡待遇がなされているため「不合理」とはいえません。しかし、「不合理」性は、「待遇のそれぞれについて」判断するため、夏季休暇については話が別です。夏季休暇が契約期間や勤務時間の長さとは関係なく、労働者の心身の回復を図るという目的で与えられているときには、この目的は、非正規社員にも当てはまりますから、非正規社員に夏季休暇を与えないことは「不合理」といえます。
また、「不合理」性の判断するにあたっては、「当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるもの」のみを考慮することとされています。
例えば、先ほどの例で、事業主が、長く働いてもらうことを前提とした正社員の福利厚生を厚くして有為な人材を定着させるために、正社員には特別に夏季休暇を与えているのだと説明しているとします。しかし、このような説明は、事業主の主観的・抽象的な説明にとどまるものであり、このような事情は、上記夏季休暇の性質・目的とは関係がありませんから、考慮事情とはなりません。
3「不合理」かも?と思ったら
まずは、事業主に対し、待遇格差の内容やその理由について説明を求めたり(第14条)、社内の相談窓口に相談したりすることが考えられます(第16条)。労働組合に加盟して、事業主との団体交渉等を通じて待遇改善を求めることも考えられるでしょう。裁判上は、事業主に対し、損害賠償を請求することなどが考えられます。
もっとも、「不合理」性の判断や待遇格差の解決方法については、ご本人の置かれている状況や個々の職場の実態によって大きく変わってきます。弊所には、非正規社員の方も含む働く人の権利の実現に尽力してきた実績がございますので、まずは、お気軽にご相談ください。
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