コラム

第1回『人を好きになる自由』

 「みなさんは、好きな人はいますか。」こんな問いをなぜ、法律を扱う弁護士がするのか、不思議に思われる方もいらっしゃると思います。しかし、人を好きになることにより、社会からいわれのない偏見・被害に遭われている方がいます。それは、同性愛の方です。「同性を好きになる方は病気じゃないの?」とか、「ごく一部の人だけではないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、もちろん病気でもなければ、多数派ではないにしろごく一部の人だけではなく、私の周りにも何人もいます。

 人を好きになることは自由であり、同性の人を好きになったことにより、異性の人を好きになった人に比べ、差別をされたり、攻撃の対象にされたりするいわれはありません。しかしながら、差別され、攻撃の対象にされるのが現実です。

 まず、同性愛の方は、どんなに愛し合っても「戸籍上」の夫婦になることができません。婚姻届けを出すかはその人たちの自由ですが、彼・彼女らには、その選択肢さえもありません。また、パートナーと家を共同で買いたいと思っても、「戸籍上」の夫婦ではないために、ローンを連帯債務者として組むことができないのが現状です。同性愛者であることにつけ込む詐欺・脅迫事件もありますし、ゲイだという理由だけでいわれのない暴行を受け尊い命を奪われた方もいます(「ゲイバッシング」と言われています)。

 また、同性愛の方の中には、メンタルヘルスやHIV感染といった健康問題も懸念されています。特にHIV感染については、同性愛者として社会的偏見・差別を受けてきたうえに、さらに病気への社会的偏見・差別にさらされ、自己肯定がより困難になる方もいます。HIV感染の事実は、個人のプライバシーに属し秘密を保護すべき程度が極めて高い情報で、かつ、日常生活での感染のおそれはなく、感染後にすぐに治療を開始するとは限らず、治療を開始しても適切な治療を受けていればエイズが発症することなく生涯を終えることができるまでに医療は進歩しています。にもかかわらず、雇用主にHIV抗体検査を無断でされ、感染の事実が分かるや解雇されてしまう人もいるのです。

 このように、同性愛の方は、その事実を自分で受け止めるだけでも大変な葛藤があるにもかかわらず、多くの差別を受けてきています。このような同性愛の方のコミュニティーを作って活動していこうというNPO法人アカー(動くゲイとレズビアンの会)があります。同性愛者の差別をなくそうと活動している弁護士や私は、アカーと月1度会議を持ち、実際に法的問題にまで発展した事件に取り組んでいます。このような活動を通じ、私は、少しでも同性愛の方に対する偏見・差別がなくなり、同性愛の方が普通に生活を送れることができればと微力ながら日々頑張っています。この記事を読んでいただいた方に、同性愛の方の状況を少しでも頭の片隅においていただければと思います。