コラム

橋本千尋さんの手紙  【2022年事務所ニュース夏号】

弁護士  小島 周一

 今年は、弁護士に配布される「弁護士ドットコム」から坂本堤弁護士一家事件・旭台幼稚園事件などの取材を受け、日本テレビ系列の動画配信サービスHuluからも「The重大事件 サリンを作った男」の放映に関わって坂本弁護士一家事件の取材を受けました。1984年3月に発生し、坂本弁護士も弁護団に加わった旭台幼稚園廃園問題は、1990年11月に幼稚園の存続を勝ち取り、私はこれを「おかあさん、幼稚園なくなるの?」という本にして、まだ坂本弁護士一家救出活動を続けている最中の1992年に出版しました。これを読んでくれた司法研修所同期同クラスの橋本千尋弁護士が、感想の手紙をくれました。
 「『おかあさん、幼稚園なくなるの?』拝読致しました。事実経過は、かなり過酷である。しかし、『田郷さん(注 経営者)』と最後まで書き、『河弁護士(注 経営者代理人)』に対する感情的な言葉がない。このことが、逆に、彼らを『小悪党』に落としめていて、実に小気味がよい。お母さん方と先生方の間に生じる疑心。役員から出される不満。裁判官交渉。さりげなく触れられたエピソードと語り尽くせぬ思いを秘めた行間が『人間は信頼できる』という重い言葉に凝縮されていく。『頑張っているなぁ』と思わずつぶやき、『負けてはいられない』と気をひきしめる。そんなさわやかな読後感でした。『彼』の感想を早く聞きたいものです。『小島だけヒーローになっていてけしからん』と怒るかもしれませんね。」
 「俺が伝えたかったことを、全てわかってくれている!」。橋本さんは2016年、61歳の若さで天に召されましたが、この手紙は私の宝物になり、文面は今もそらんじることができます。