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残業代ゼロ法案、本当に必要ですか?

 厚生労働省労働政策審議会は、2015年2月13日、「今後の労働時間法制等の在り方について(報告)」という報告書をとりまとめ、厚生労働大臣に建議を行いました。厚労省は、この報告書に基づき、通常国会へ法案の提出を行おうとしています。

 この報告書の内容によれば、企画業務型裁量労働制の適用対象となる業務範囲を拡大するとともに、その手続を簡素化させることで、労働時間の計算を実労働時間ではなくみなし時間によって行うことが今後ますます容易になります。そして、「高度プロフェッショナル制度」なる名称のもと、新たな労働時間法制の適用除外制度を設けることにより、「残業代ゼロ」を合法化しようとしています。

 しかし、この内容は、以下のとおり極めて問題の多いものなのです。

 まず第1に、現状において長時間過重労働による過労死・過労自殺、精神疾患などの健康被害が広く日本の職場に蔓延しているにもかかわらず、労働時間制度の規制緩和を行ったならば、ますます長時間労働が広がり、過労死・過労自殺が増加する危険性は極めて大きいものとなってしまいます。政府が進めている新たな労働時間制度の創設は、わが国で働く労働者の命と健康を脅かす意味で極めて危険であり、過労死を助長する「過労死促進法」だと言えましょう。

 第2に、残業代ゼロの適用対象を年収1075万円以上とするという年収要件に関しては、高年収の労働者であれば、長時間過重労働による健康被害を防止しなくてよいということには決してなりません。加えて、ひとたび新制度が立法化されてしまえば、なし崩し的に年収要件が引き下げられていく危険性が極めて高いのです。現に日本経団連は2005年6月21日の「ホワイトカラー・エグゼンプションに関する提言」で、対象労働者の年収を400万円と想定していました。

 第3に、労基署が監督権限を行使するためには労働時間規制等の具体的な法的根拠が必要ですが、肝心の労働時間規制が緩和されてしまっては、監督官が悪質な企業に対して是正指導をする法律上の根拠がなくなってしまい、長時間労働がますます野放し状態になってしまいます。

 第4に、「時間ではなく成果で評価される」制度の創設の必要性など全くないことです。現在でも、多くの職場において人事評価制度や成果主義的要素を含む賃金体系が導入され、これに基づいて賞与査定や昇給・昇格が行われているところであり、成果に応じた賃金の支払いは新制度を導入し残業代をゼロにせずとも可能なのです。

 このように、残業代ゼロ法案は、作る必要性がないばかりか、いったん作られてしまえば極めて有害なものなのです。

 本法案の審議については、ぜひとも注目し、本法案の成立に強く反対していく必要があるでしょう。

 なお、本法案の問題点は、拙稿「労働時間規制と過労死」(労働法律旬報1831・32号61頁、川人博弁護士と共著)にて詳述しましたので、ご覧ください。

 本法案については、ネット署名も始まりました(下記のリンクのとおり)。ぜひご協力ください。

 ・ネット署名サイト(「定額働かせ放題」法案の撤回を求めます!)/http://chn.ge/1BDy4pp