コラム

第8回『日本にいては、いけないの?』<シリーズ第3回>「定住への道」

(この話は、実際にあった複数の話を踏まえながら、それぞれの人のプライバシーに配慮して、名前や内容を変えてあります。)

 3人の先生たちと仁木弁護士は,その後も、王君と連絡を取り続けました。

 王君は、新入社員として働けなかったことにがっかりはしましたが、今、自分のできることをしようと考えて、保育園でアルバイトをしています。この保育園には、中国から来たお母さんやお父さんの子どもがたくさんいました。王君は、日本語と中国語に通じている上に、日本に来たばかりの不安な気持ちを分かることができるので、園長先生も他の先生も、王君が来てくれて大助かりです。でも、週28時間という制限を守り、時給で働いています。

 在留資格の中で一番安定しているのは、「永住者」という 資格 です。でも、日本人との家族関係がある場合を除いて、10年以上日本で生活していないと受け付けられません。

 他に、職業選択の自由があるのは、日本人と結婚している人なのですが、王君にはそういう気持ちはありません。そうすると、「定住者」という在留資格の他には、考えられません。家族は、技能とこれに従属した家族滞在という状態ですから、3人そろって定住への変更許可を申請することになります。お父さん、お母さんは、「せっかく技能で3年間の在留期間まで延ばしてきているのに、なぜ、新しい在留資格一年限りのものに、わざわざ変更しなくてはならないのか。」と言って、首を縦に振ってくれません。

 林先生、髙山先生、水野先生が、入れ替わり立ち替わり、お父さんとお母さんを説得しました。18才の王君が、これから日本で生活をしていくとき、いつまでも父親に扶養される家族滞在の立場でいいのか、自分に向いた仕事をしていくとき、自営でも、雇われるのでも、時間の制限(それによって当然生じる所得の頭打ち)をされたままで力一杯の仕事ができるのか、みんなで考えました。申請したからと言って必ず許可されるとは限らないけれど、王君家族は、一歩踏み出すことにしました。

<連載はいったん終わります。>