コラム

第9回『番号法、マイナンバー制度について』

 2013年5月24日に「行政手続きにおける特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(「番号法」)が、制定され、2015年10月から施行される。この番号法は、住民票を有する国民一人1番号づつのいわゆる「マイナンバー」を振り、国や地方自治法などが保有する社会保障や税、災害対策等の個人情報をマイナンバーと結び付けて効率的に情報を活用するというシステムである。この番号法の最大の目的は行政運営の効率化であり、マイナンバーで管理する個人情報を異なる分野の行政機関が照合したり確認することができるというものであり、迅速な情報の授受により効率的かつ正確な事務運営を実現できるといものである。

 これまでの地方自治体などの個人情報の扱いは、個人情報保護条例等によって規定されており、おおむねどの自治体も個人情報の取り扱いの制限を設け、個人情報の収集目的を明確にし、その目的の範囲を超える個人情報を集めないこと、個人情報の収集も本人からの収集を原則とするなど適法かつ公正な手段に限ること、個人情報は、利用目的を超えて利用や第3者への提供は行ってはならないと厳格に定められている。この厳格な決まりにより個人情報が不正に使用されたり漏えいしないよう守られるようにルール化されていた。

 これに対し、マイナンバー制度は、行政同士がマイナンバーを介して個人情報を提供し合えるシステムとなるのであるから、これまでの行政の個人情報の扱いを大きく変更するものである。福祉や税等の分野で行政間の垣根をなくして、個人情報をやり取りできるということは、確かに便利で効率的である。たとえば、これまでは同じ市役所でなぜ課をまたぐ申請をする都度、課税証明やら住民票やらなんやらを取り直さなければならなかったりしていたが、このような市民の手間を省き労力も大幅に軽減されるのも事実であろう。

 しかし、便利さの裏面には危険が常に潜んでいることを私たちは認識しておく必要がある。一つは漏えいの問題であり、もう一つは管理社会の問題である。

 まず、漏えいの問題であるが、個人情報が一元管理される方向になるということは、いったん漏えいした場合には広範囲の情報が漏れだし、取り返しのつかない事態になりかねない危険を含んでいる。

 以前、住民基本台帳法が施行されたときに、住民票等の情報を行政同士のオンラインでつなぐことについて、その安全性について多くの警告が発せられ、様々な議論を巻き起こし、自治体によっては安全性の確保がなければ実施できないというような姿勢をとったところもあった。ところが、今回のマイナンバー制については、その扱われる個人情報の量はさらに多く、範囲も広いにもかかわらず、あまり議論がなされていないように思う。

 次に、国民一人一人に番号を付けることにより、国や行政が国民の個人情報を総合的に収集することが可能となり、結果国民を「管理」し、「監視」することが容易になる社会となりやすい。私たちは、どこまで国に自分のことをさらけ出さなければならないのであろうか。国にすべてを預けることの危険性の認識も常にもちつづけなければ、いつの間にか国民が、管理体制の下に組み込まれてしまうのではないだろうか。コンピューターによって個人が管理されるSF映画のような社会になってはならない。

 個人情報がインターネット上でつながってしまうことに我々は慣れっこになってしまったのかもしれない。便利さや効率性は、もちろん必要だが、それだけではない視点を持ち続けながら、これからの「マイナンバー制度」の行方に注意していかなければならないと思っている。