コラム

第19回『在留資格でお困りの方へ』

世界中の人が仕事や観光のために日本に訪れるようになりました。隣人や子どもの同級生が外国籍であることは珍しくなくなりました。そういう中で、楽しい交流が生まれていますが、残念ながらトラブルが生じることもあります。
日本で生活する人には、国籍を問わず人権が尊重され、憲法の人権規定が適用されます。また、日本国内で生じたほとんどの紛争や困りごとについては、日本の法律が適用され、外国人だからと行って特別有利になることも不利益に扱われることもありません。
しかし、困りごとの中には、外国籍ならではの留意点があります。その象徴的な例について、解説してみます。

国際結婚とその解消・離婚

国際結婚

日本国籍の人同士が結婚する場合には、戸籍謄本をそろえて区役所(市役所)に届け出をするだけで、法律上の婚姻が成立します。
ところが、外国籍の人と日本国籍の人が結婚する場合には、原則として、日本国での届け出だけではなく、相手の人の国籍のある国においても法律上有効な婚姻を成立させる必要があります。どちらかの国の法律の下では結婚しているけれど、もう一方の人の国の法律の下では婚姻していないという状態になっている方が、意外に多くおられます。この行き違った状態を放置しておくと、生まれてくる子どもが両方の国籍を選択する機会を失ったり、配偶者が亡くなったときに相続できると期待していたものが受け取れなかったりします。
ですから、両方の国で有効な結婚が登録されるように、手続を取ることをおすすめします。
その上で、先に日本で届け出をした後に相手の人の国に報告的な届け出をする方が簡便である場合と、先に相手の人の国で創設的な婚姻を成立させてから日本に報告的届け出をする方が簡便である場合とがあります。これは、相手の人の国の法律によって違いますので、個々具体的なことについては、弁護士に直接尋ねてください。

国際結婚の解消・離婚

基本的な相違

残念ながら離婚をする場合、日本人同士の結婚に比べて、検討するべき事柄がたくさんあります。

管轄

まずは、国際司法管轄があるか、即ち、日本国内において日本の裁判所で離婚の調停や訴訟ができるかどうかという問題があります。この問題については、法律上はっきりした規定はないのですが、日本の判例上は、相手方が住所を持っている場所に国際司法管轄があるとされています。そのため、相手方が日本国内にいるならば、日本の国内で調停、訴訟ができるのですが、国外に住所がある場合には、その国に行って手続をしなくてはなりません。そして、日本の弁護士は外国に行ってその国の法廷に立つことはできませんから、その国で資格を持つ弁護士を紹介することになります。法律扶助の制度がない国だと、経費の問題も深刻です。
しかし、例外的に、相手方が、日本国内にいる家族を悪意で遺棄したといえる場合には、日本国内で訴訟を行うことができますので、この点、翌弁護士に相談してください。

準拠法

そして、日本で離婚の調停ないしは訴訟ができるということになった後、そこで適用する法律つまり準拠法が日本法で良いのか、それとも外国の法律なのかという問題に突き当たります。日本の裁判所で審理をするけれども、外国の法律を適応しなくてはならないという場合、その国の法律を調べて裁判所に示すという努力を弁護士は行う必要があります。条文だけを調べるのは、かつてよりも数段容易になりましたが、判例まで調べられるかというと、国によって、また弁護士によって、ばらつきがあります。具体的なことについては、個々に相談してください。

トピック:子の引き渡し

ここ数年来、子どもの引き渡しに関するハーグ条約締結が契機となって、深刻な紛争が生じています。この紛争の背景には、それぞれの国によって、離婚後も共同親権なのか単独親権になるのかという法律の定めが異なるということ、監護権を持たない親が子どもと面会交流する場合の頻度について法律の解釈上大きな違いがあるということがあります。ですから、単独親権を取得し余り非監護親に面会交流をさせたくないと考える人は日本での審理を希望し、共同親権を留保して頻繁に面会したいと考える人はそれを認める国において審理をしたいと求めるため、しばしば紛争は激化しているのです。そして、それ以上に、双方の当事者の感情的な摩擦が、問題の解決を深刻にさせています。

当事務所では、具体的な事例を扱った経験を持っていますので、是非ご相談ください。

在留資格・ビザ

ビザって何

外国籍の友人知人が、ビザが欲しいとか、ビザが切れそうだとか、言っているのを聞いたことがあると思います。この発言の意味するところは、文字通りのビザ即ち査証が切れるとか欲しいという意味ではありません。「在留資格」即ち、日本国籍を有しない人が日本国内に適法に在留できる資格があるかどうかということ、そして、この在留資格には原則としてそれぞれ期限が定められているので、その在留期限が満了しようとしているかどうかということを、問題にしているのです。

在留期間更新

在留期間更新をするためには、原則として、本人が自ら入国管理局に足を運んで申請をする必要があります。仕事が忙しいとか、子どもから目が離せないという理由では、免除されません。当事務所の弁護士は、入管事務取次申請を行う資格を持っていますので、代わりに申請を行い許可の証印を得る手続を行うことができます。

在留資格変更-就職・転職

更に、転職や進学を機会に在留資格の変更をする場合は、注意が必要です。
元々「技術」の在留資格を持っていたのに、畑違いの会社にスカウトされ、本人は経験値を広げようと転職したものの、新しい会社で行う業務が「技術」の要件を満たさないとして更新不許可となった人があります。この方の場合は、さいわい、「人文知識・国際業務」の類型に該当するとして変更が許可されました。
また、元々大学で学んでいた専攻科目と、就職先の業務で求められる専門性が合致していないと、就職したからと行って、新たな在留資格に変更が許可されるとは限りません。理科系の勉強をしていた人は、「技術」の在留資格に変更し、文化系の勉強していた人は「人文知識・国際業務」に変更することが大半ですが、勤務先での業務が技術や、国際業務に該当するかどうか、良く吟味をして申請をする必要があります。過去に、介護する人と介護される人の橋渡しをするために、それぞれの言語と文化を理解して助言をするという仕事をしたいと思って、大学でもふさわしい選択科目を取っているし、そのような就職先が決まったのですが、雇い主が、簡単に「介護職」と書いて申請をしてしまったために、不許可となった例もあります。注意してください。

在留資格変更-結婚、離婚、死別

結婚

日本国籍を持つ人と結婚すると、「日本人の配偶者等」という在留資格に変更できます。しかし、その前に持っている在留資格の種類如何によっては(たとえば「定住者」)、変更しない方が良い場合もあります。また、短期滞在の在留資格しか持っていない人の場合には、直接変更できない、いったん帰国を進められることもあります。

離婚

離婚をするときには、一層問題は深刻です。
ご自身が「永住者」である場合は心配ないのですが、「日本人の配偶者等」又は、「永住者の配偶者等」である場合には、離婚してしまえばこれらの在留資格を失います。
例外的に、日本国籍の子どもの親権者となり現実に監護養育している場合は、「定住者」に在留資格変更ができます。永住者の子どもの親権者となって監護養育している場合に、「定住者」に変更できる場合もありますが、必ずしも容易ではありません。それまで何年日本に暮らしてきたかとか、生活の状況はどうかということによって左右されますので、弁護士に面談して、個々の事情を詳しく相談してください。

死別

配偶者の死別は、ご自分の意思ではどうしようもないことです。
愛する人に先立たれて、しかも外国での病院の手続や、葬祭の手続に不慣れな外国籍の配偶者にとって、困難なことが山積みです。
それに加えて、過酷なのは、死別の場合ならば離婚と違って従前の在留資格が継続できるというルールはありません。原則は、離婚の場合と同じ扱いとなります。
しかし、亡くなった配偶者の子どもや親の面倒を見たり、財産を受け継いだり、墓前を弔ったりする、いろいろの事情があります。これらと、ご本人のこれまでの居住歴や生活状況の総合的な判断で在留資格が確保できるかどうか決まります。離婚の場合以上に、判断例が分かれていますので、慎重に、丁寧に、申請を行う必要があります。精神的に疲れているときにこのような申請を一人で行うのは大変ですから、是非弁護士にご相談ください。