コラム

労災不服申立てで逆転3連勝!  

弁護士 笠置 裕亮

1 労災手続の中で、いったん労災認定が認められなかったものが、行政庁に不服申し立てをすることで、結論がひっくり返ることが稀にある。
 労災の行政不服審査制度における最上級審たる労働保険審査会は、年間500~600件の再審査請求を受理している。そして、年間にほぼ同数の裁決を行っている。その中で、原処分取消(いわゆる逆転裁決)の割合は、ここ10年の中で、2~6%程度で推移している。業務上外の判断を求める事案に限っては、取消率はさらに低く、1~4%にしか過ぎない(事件種類別裁決件数は、労働保険審査会のHPに掲載されている。)。
 そのような中で、私は2020年に入り、現時点までで(2020年10月)労働保険審査会から3件もの原処分取消の逆転裁決を得た。まさに宝くじに当たるかのような僥倖に巡り合えたというほかない。
 そのうちの1件が、太田弁護士と担当している、三菱電機の事件である。
 
2 本件は、2020年3月18日、労働保険審査会にて逆転裁決を獲得した事案である。
 本件は、被災者の方が、約15年前に長時間労働によってうつ病に罹患したあと、生活不安から、なかば無理やり復職したため、病状が好転しないまま、長年にわたり形だけ何とか勤務を続けてきたところ、症状を隠し切れなくなり、ついに長期療養を余儀なくされたという事案である。
 労災の認定基準に照らせば、極めて困難な事件であり、実際、労基署段階では不支給決定が下された段階で、太田弁護士のもとに相談が持ち込まれたという経過があった。審査請求を行ったが、きちんと調査もなされず、簡単に不支給決定が維持されてしまった。その上での、再審査請求であった。
 労働保険審査会が、逆転で業務上決定を行う例は全国的に極めて珍しいこと(現時点で発表されている限り、委員の構成が大差ないと思われる2019年においても、結論が出された93件のうち、取消事例はたった1件である。)、各種報道にあるとおり、過重労働による過労死・過労うつ事案が相次いでいる三菱電機から指揮命令を受け、労務管理をされながら勤務していた従業員に対する労災認定であること、寛解のハードルを厳格に設け、寛解しているか否かの審査を丁寧かつ慎重に行うべきことを求めた点で、大きな社会的意義を有すると思われる。
 
3 逆転した3件は、いずれも、ここが覆れば結論が変わるのに…というポイントが明確であった。明確であるがゆえに、判断する側にとっては、大きな決断を迫られる。他方で、請求をしている側にしてみれば、そのポイントを覆す材料を得られない限り、必然的に結果は同じことになるため、なかなか厳しいものがある。以前は、他の法律事務所が受任ないし相談に乗っていた事件が含まれており、なかなか苦慮していたようであった。
 うち2件は、医学的にみてどうだったのかが非常に重要なウェイトを占めていた。そのため、弁護士側は自分でもその分野の知見を収集しつつ、病院に通い、専門医の見解を伺い、何とか突破口が見いだせないかを探った。つまり、弁護士側は、方針を立て、事実を調べることがメインで、医師側には、それを提供しつつ、医学的見解を伺うという役割分担を行う。
 うち1件は、ご遺族が何とか確保した遺品を徹底調査するなどし、過重労働の実態が裏付けられないかを丹念に調べていくという点がポイントであった。これは、純粋に、弁護士の腕の見せ所である。
 ただ、何も手がかりがない事案は、とても厳しい。調査のとっかかりが見いだせないからである。手がかりを探るべく、様々な法的手段をとりつつ、証拠を収集することも多々ある。
 そのような努力をたゆみなく積み重ね、行政をうまく説得できれば、労災認定につながっていく。
 最近、とある労災事件で相手方となった10年先輩の弁護士に、「初めに会社から相談を受けた時、労災認定など下りるわけがないから安心しなさいとアドバイスしていましたが、実際には認定が下り、その後、先生の立証の内容を見たところ、なぜ認定されたかが分かりました。」と言われた。弁護士になって、とても嬉しかった経験の一つである。

 私たちの事務所では、各弁護士が、それぞれの専門分野の研鑽を積んでいます。
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