コラム

法廷にいる人【2024年事務所ニュース 夏号】

弁護士 芳野 直子

 日本最初の女性弁護士の一人である三淵嘉子さんをモデルにした朝ドラ「虎に翼」が面白い。

 ドラマでは、実際に起きた「帝人事件」(昭和9年に起きた疑獄事件)をモチーフに、緊迫感のある裁判が繰り広げられた。その裁判のロケは「名古屋市市政資料館」で行われたらしい。ここは旧名古屋高等裁判所の建物で、法廷も昔のまま保存してあって、法服(当時は裁判官・検事・弁護士皆法服を着用していた)を着た人形が裁判の様子を再現して、当時をリアルに感じることができる。名古屋で修習していた私はここを何度か訪れているが、とても印象深かったのは、当時の刑事裁判は、壇上に裁判官と検察官が並んで座り、弁護人は壇の下に座るという構造になっていた点であった。官が偉く、民は低いという戦前の日本の構造がそのまま法廷にも表れていた。それが戦後、検察官と弁護人は向かい合って同じ目線で闘うことになった。その後裁判員裁判が導入され、裁判官と並んで座るのは民間から選ばれた裁判員となり、時代の流れを感じずにはおれない。

 司法界ではここ数年、IT化が進み、民事訴訟は法廷ではなくインターネットでやり取りすることが当たり前になった。どんな形かはともかく刑事裁判にもIT化の波はやってくるであろう。そうなると未来の法廷には人はいるのか。戦前の法廷が官民の関係を象徴していたように、人がいなくなった法廷は何を象徴するのであろうか。法廷の主役が「人」でありつづけることを願う今日この頃である。