コラム

2020年新年号事務所ニュース

巻頭言

横浜法律事務所がある横浜関内地区には、黒船来航を契機として、一八五九年に江戸幕府が開いた横浜港があります。鎖国により長く閉ざされていた日本に、横浜港を通じて世界中の人や物が流れ込んできました。今も関内地区のあちこちには、初めての西洋式庭園、初めての水道、初めてのガス灯、初めての商工会議所、初めてのパン、初めてのアイスクリーム等、様々な初めて記念碑を見つけることができます。横浜に暮らす多くの人は、わずか一六〇年の間に積み上げられたこの横浜の歴史に誇りと愛着をもっています。
二〇一九年八月二二日、林文子横浜市長は、その横浜に特定複合観光施設(IR)を誘致することを発表しました。IRとは、民間賭博であるカジノの収益を基盤としたホテルやショッピングセンターなどの総合型リゾート施設のことをいいます。誘致の主たる理由は、横浜市の経済活力の低下や厳しい財政状況が見込まれる中、IRには多くの経済的効果が期待できることとされています。
確かに、海外の資本が参入に名乗りを上げているのも巨額の収益が上がるからでしょう。しかし、一部は横浜市に税金として支払われるにしても、その他の収益の大半は海外の資本家や投資家に流れていくのです。暴力団の関与や、マネーロンダリングに使われるなどの危険も心配されています。これで本当に、地域が豊かになるのでしょうか。
また、賭博にはギャンブル依存症がつきまといます。依存症対策は必要だとは国も認めていることですが、そもそも依存症を生み出す施設をつくりながら、これの対策を行うということ自体マッチポンプではないでしょうか。ギャンブルをやめられない依存症は、多重債務者をも産みだし、貧困を拡大再生産させることにもなりかねないのです。
カジノに集まるお金によって世界のどこかのお金持ちの富がさらに増えていく中で、カジノを起点に日本の中に貧困が広がっていきます。貧富の格差はこんなところにも芽をだしていくのです。
横浜市が二〇一八年五月に行った意見募集では、IRに関して提出された四三三件の意見のうち四〇七件がIRに否定的な意見でした。この市民の思いはどこに追いやられてしまったのでしょうか。
横浜は、港を臨みつつ、山手地区で文明開化の時代を思い起こし、中華街で異国情緒を楽しみ、みなとみらいの高層ビル群で未来の息吹を感じる豊かな街です。そんな横浜にカジノは似合わないのではないでしょうか。