コラム

木イチゴの空

弁護士 小島 周一

 子どもの頃、昔の地名だと武蔵の国橘樹郡、多摩丘陵の南端の丘の上で育った。小学校に向かう丘の斜面は雑木林で、斜面をクネクネと細く続く赤土の坂道を外れると、林の中には誰もいないし入って来ない。そんな林を探検するのが好きだった。
6月、林の中に、2メートル四方位の広さで木イチゴが茂っているのを見つけた。黄色い実はとっても甘く熟していて、誰も食べた跡はない。斜面に寝転がると、木イチゴの葉が空のように広がり、黄色い実はまるで満天に瞬く星のようだ。寝転がったまま手を伸ばせばすぐ取れるその星たちを思う存分食べた。
次の日、仲のいい友達にだけその場所を教え、近くに秘密基地を作った。斜面の下の畑にあったトタン板をこっそり引きずってきて、地面に建てた細い柱に打ちつけて屋根にしたりした。すぐそばの木に登ると、丘の下に広がる町並みや小学校が見渡せた。秘密基地は、1ヶ月程で誰かに壊されてしまったが、それまでは、自分たちだけの、誰も知らない世界を持っているようで、ワクワクしていた。
雑木林も、勝手に入れる空き地も身の回りになくなってきた都会で、今、子供たちは、こんな、親も大人も、誰も知らない「自分たちだけの秘密基地」をどこかに持てているのだろうか。