コラム

有給とって傍聴席を埋めてくれ  

弁護士 小島 周一

 私が弁護士登録したのは1984年4月、当時は原告の人数が100人を超える思想差別事件や組合差別事件など、事務所を超えた弁護団で取り組む事件がいくつもあり、私もすぐにその一員となった。それらの事件では、差別をした企業や国は、事実や資料を隠したり、「あることないこと」どころか「ないことないこと」を主張したり、あるいは「針小棒大」を絵に描いたような主張をして、差別をしてはいないと争っていた。そんな被告が裁判に送り出す証人たちは、「事実」よりも「自分の立場」が大切なので、内心では真実ではないことを知りつつ、被告の主張通りの証言をする。それを反対尋問で崩すことが原告代理人の重要な役割だった。

 私も1年目から反対尋問を担当したが、そんなときは、傍聴に来た50人以上の原告や応援の人に、「次回の被告証人の反対尋問担当は私だ。映画を観るより絶対面白い尋問になるから、有給とって傍聴席を埋めてくれ」と言うのが常だった。

 もちろん尋問準備はこれからだけれど、そう言ってしまったからには失敗はできない。成功するだけじゃなく、「来て良かった」と思わせなくてはいけない。そのプレッシャーがきつくもあり、楽しくもあった。

 当日、傍聴席が何度も湧いた尋問が終わった後、「今日は面白かったな」と言い合いながら帰って行く原告たちを見ると、また次もそうやって傍聴席を埋めようと思うのだった。

【2021年事務所ニュース夏号】