コラム

遺産相続に思う

弁護士 三木恵美子

 1989年に弁護士になった頃に比べて、遺産に関する相談を多く受けるようになった。弁護士が年取っていた方が話しやすいというのもあるかもしれないが、それだけではないと思う。
 「嫁いだ娘」は実家に権利を主張すべきではないという社会的な抑制に抵抗して、共同相続人としての権利を主張できる雰囲気が広がった。配偶者に住まいを確保してあげたい、そのためには子どもが売却を迫らないで欲しいがそうとも限らない、とリアルに予想する人が増えた。形骸化した婚姻関係があり、離婚に必要なエネルギーは惜しいが、遺産は渡したくないと願う人もある。
 他方、共同相続人のなかに外国に住んでいる人がいたり外国籍の人がいたり、また、遺産の中に外国にある不動産が含まれていたり外国の金融機関に預けた預貯金や証券などが含まれていたりして、扱いに戸惑っているという相談も増えている。
 総じて、亡くなった人への思いの強さがあればあるほど、感情の摩擦は強くなり、紛争も厳しくなる。
 遺産を巡る相談を受け続けていると、この社会の有り様とその変化を感じて、不謹慎かもしれないけれど、実のところ、わくわくする。

【2022年事務所ニュース新春号】